韓国とキリスト教
韓国とキリスト教 浅見雅一,安廷苑(著)中央公論新社(2012/7/24)
目次----------------------------------------------------------------
はしがき
第1章 キリスト教会の存在感
1 データから見る韓国教会
生活の中のキリスト教 統計的に見る信者数 カトリックの信者数 プロテスタントの信者数
2 韓国教会の拡大
伝道集会の開催 拡大と停滞 教会の経済力と世襲問題
3 大型教会の出現
大型教会とは ヨイド純福音教会 趙𨉷基の神学
4 アフガニスタン人質事件と海外布教
アフガニスタン人質事件の波紋 韓国教会の世界進出 海外宣教の実態と背景
5 在外韓国人の教会
在外韓国人にとってのキリスト教 コリアン・アメリカンとキリスト教
第2章 キリスト教の伝播と朝鮮西学(歴史・上)
1 前近代のキリスト教の特徴
韓国キリスト教の起源 韓国教会の特徴 韓国への伝播
2 文禄の役とキリスト教
日本から朝鮮へ ルイズデメディナの研究 朝鮮人殉教者 キリシタン大田ジュリア
3 韓国教会の起源をめぐって
ルイズデメディナに対する批判 李元淳の批判
4 西学と天主教
西学とキリスト教 昭顕世子 中国から朝鮮半島へ 李承薫の受洗 朝鮮のキリスト教の特徴 迫害と殉教 黄嗣永帛書
5 カトリックの布教と迫害
朝鮮教区の設立とイエズス会の再布教 聖職者の殉教 丙寅教難 朝鮮の殉教
第3章 近代化とプロテスタント(歴史・下)
1 プロテスタント布教の開始
近代の教会史研究 イギリス人宣教師トーマスの殉教
2 諸外国の朝鮮布教への参入
聖書のハングル訳 日本における聖書のハングル訳 アメリカとの関係 諸外国との関係 朝鮮プロテスタント教会の特徴
3 帝国主義とキリスト教
受難と葛藤 日清・日露戦争後の教会 1907年の大復興 大司教ムーテル
4 植民地化と神社参拝問題
植民地化と独立運動 1920年代から30年代の動向 神社参拝問題
5 独立後の韓国教会
独立後の教会史 米軍とキリスト教会
6 韓国の近代化と教会の拡大
国家朝餐祈禱会 大規模集会の開催 民主化運動とカトリック教会 カトリック教会と韓国政府
第4章 キリスト教受容の要因
1 韓国の宗教的枠組み
韓国シャーマニズム 韓国の宗教
2 キリスト教の受容
キリスト教浸透の要因 ①韓国の原信仰とキリスト教 ②理と気のキリスト教 ③儒教とキリスト教の倫理 韓国的「恨」
3 東学とキリスト教
東学=天道教 キリスト教との接近 西学から西教へ
4 祖先崇拝の摂取
儒教と祖先崇拝 共存か排斥か キリスト教の受容
第5章 韓国キリスト教会の問題と展望
1 社会における教会の問題
韓国教会の問題点 メディアによる教会批判 課税に抗する政治的圧力 教会の大型化と拡大
2 大型教会主義と個別教会主義の陥穽
韓景職と永楽教会 大型教会主義と個別教会主義 カルトの問題
3 北朝鮮の教会
北朝鮮の教会の歩み 北朝鮮の朝鮮基督教徒連盟 北朝鮮のキリスト教をどう捉えるか
4 韓国からのアプローチ
教会財源による平壌科学技術大学の設立 脱北者の支援
5 岐路に立つ韓国教会
日本との関わり 韓国教会の課題
あとがき
参考文献
図版出典一覧
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キム・ヨンジェによれば、韓国の信者はシャーマンが神と人間の仲介者の役割を果たす巫俗信仰に慣れているために、牧師を祭司と見る傾向が強いという。これが個別教会主義のひとつの土台となっていると言えよう。このような宗教的背景から、牧師はカリスマ的ん権威を志向したり教権主義に陥ったりしやすくなる。そこにもやはり、独裁、腐敗、路線逸脱の余地が生じる。カリスマ的教権主義は、個別教会主義の原因であると同時に結果でもある。
個別教会主義のさらに大きなもうひとつの原因として、教会分裂が考えられる。教会分裂とそれにともなう競争的な教勢の拡張によって、個別教会主義は生まれた。日本による神社参拝の強制の後遺症として、終戦後に教会の分裂が繰り返されたが、その後も神学的見解や教会内の主導権争いなどで深刻な分裂が続いた。これには、アメリカの多くの教派から派遣せれた宣教師たちによって、多数の教派教会が乱立し、教会の分離や分立を問題視しない教会観が形成されたことも影響していると言われる。
その結果、次のような状況を生み出している。
第1に、不健全な神学やカルトを生み出しやすい状況を作り上げた。なかでも韓国の長老派教会は、とりわけ教会分裂が深刻化し、教派内で数百の教団に分裂したと言われる。それにより、不健全な神学を持つ宗教集団も長老派の看板を掲げ、数多く存在する教団に紛れて安全に存在する、いわばカルトの温床と化していると指摘されているのである。
第2に、地域社会との乖離が起こる。各教会間の教勢拡張の競争によって、教会は必然的に大型教会を志向するようになり、ますます個別教会主義が強化されていくのである。その結果、教会はコミュニティー・チャーチ(地域社会の教会)としての性格を失いつつある。教会が地域社会とは関係ない信者の礼拝と彼らの宗教的目的のために集まる場となり、礼拝の後にはその地域社会とほとんど関係のない個別の信者として生きていく。彼らの多くは社会問題には関心がない。その結果、教会は社会還元に消極的であると批判され、社会的信用を失墜させることとなったのである。
第3に、教勢拡大の一環として海外宣教などを独自で行うことが、社会的混乱を招いてしまう。個別教会主義の教会が宣教師の海外派遣などを独自に行い、その成果を国内に誇示する風潮が生まれたりもする。ひとつの教会が独自に宣教師を派遣するので、海外宣教には宣教政策もなければ支援策も定まらず、その活動には混乱が多くつきまとうのだろう。その結果、2007年のアフガニスタン人質事件のようなことも起こり得るのである。