「社会的入院」の研究―高齢者医療最大の病理にいかに対処すべきか 印南一路 東洋経済新報社(2009/03)


目次--------------------------------------------
はじめに


第1部 社会的入院とは何か
第1章 社会的入院=本当は不適切な入退院
1 社会的入院=長期入院と捉えると問題が消失する
厚生労働省は6カ月超の長期入院として捉えてきた
介護保険制度の創設により、本当に一般病床の社会的入院が解消したのか


2 社会的入院=退院遅延と捉えると原因分析と解決策に偏りが出る
研究者は退院遅延と捉えることが多い
本書の社会的入院の定義


3 不適切な入退院の5類型
社会的入院継続
社会的新規入院
不適切な転院
未完退院
社会的入院
複合的な社会的入院


4 高齢者医療・介護に関係する施設と患者の流れ
病院と病床
一般病床と療養病床
診療報酬上の病床区分
介護保険施設
高齢患者の流れ
介護保険施設から見た高齢患者の流れ


5 高齢者以外の社会的入院
精神疾患患者の社会的入院
難病患者の社会的入院
人工透析患者の社会的入院
救命救急センターにおける社会的入院


第2章 社会的入院はイエローゾーン医療の1つ
1 医療の必要性―社会的入院の定義をめぐる問題
社会的入院=医学的に不必要な入院か


2 従来の医療の適切性判断に関するモデル
適切性判断に関する状況依存モデル
臨床判断の構成要素-C.Mulrowらのモデル


3 医療の適切性に関する二次元モデル(医学的必要性と社会的妥当性)
医学的必要性に関する判断


4 社会的妥当性を欠く医療
社会的妥当性の要素
医療資源の効率的な分配について
社会的妥当性の判断に経営判断が入ってよいか
社会的入院はイエローゾーン医療


5 入退院の意思決定の実態と社会的入院の判定
入退院の意思決定の実態(共同性と総合性)
「入院継続が必要」と「退院可能」は相互排斥的ではない
社会的理由を知る者が判定できる


第3章 社会的入院の何が問題なのか
1 社会的入院は高齢者の人生を台無しにする可能性がある
社会的入院は医療の質の問題
廃用症候群とは何か
廃用症候群と寝たきり、認知症の関係
医療者のジレンマ
社会的入院廃用症候群
本当の問題は低密度医療


2 社会的入院は医療費の無駄を生み、必要な医療を提供できなくする


3 社会的入院は世代内・世代間の不公平をもたらす


4 社会的入院は医療者・介護者にストレスをもたらす


5 高齢者の社会的入院問題は日本の医療が持つ最大の病理


第2部 社会的入院の実態
序論
1 実態調査の方法


2 推計値の信頼性について


第4章 長期入院の実態
1 一般病床も療養病床も高齢患者が多数を占める


2 一般病床では6カ月超の長期入院は6.8%


3 療養病床では6カ月超の長期入院が6割を占める


4 過去の研究と比較してみると


第5章 伝統的な社会的入院の実態
1 一般病床に入院中の高齢患者の3分の1(17万人)が社会的入院継続


2 療養病床に入院中の高齢患者の2分の1(15万人)が社会的入院継続


3 社会的入院継続の主たる理由は介護力不足・介護忌避・介護施設不足


4 社会的新規入院患者数は一般病床に年間36万人、療養病床に年間16万人


第6章 社会的入院の新展開
1 保健制度上の理由による未完退院が高齢者に不利益をもたらしている


2 一般病床からの不適切な転院は年間71万人、療養病床からは年間10万人


3 一般病床からの未完退院による社会的再入院は13万人


4 社会的入院を生み出す病院特性


5 社会的入院の解消によって適正化される医療費は1兆5000億円


第3部 社会的入院の発生原因をひも解く
序論
1 社会的入院の本質的な原因を求めて
三大要因をそのまま受け入れられるのか
原因追求のプロセス


2 社会的入院の当事者要因モデルと需要供給行動モデル
当事者要因モデル
需要供給行動モデル


第7章 先行研究が指摘する当事者要因
1 安心を求め入院医療に依存する患者
患者の身体機能・精神機能
高齢者医療に対する理解不足
不安と病院への心理的依存
その他


2 在宅介護の気持ちはあるが、負担感から介護を忌避する家族
家族の介護力不足
介護力不足は社会的入院の原因か
在宅介護への不安・負担感と介護忌避
家族の心情や理解不足
患者と家族に共通する背景要因


3 退院調整機能が不足している病院
早期退院に対する意識不足
退院基準の不明確性と医師の裁量的判断
コミュニケーションの問題


第8章 当事者要因への対策とその評価
1 患者要因への対策は早期リハビリ早期退院支援


2 家族要因への対策は介護システムの充実


3 病院側の要因に対する対策は退院支援機能の強化


4 当事者要因に対する対策のみでは社会的入院は解消しない


第9章 在宅介護忌避を誘導する不均衡問題(需要サイドの要因)
1 国民は本当に在宅介護を望んでいるのか
在宅介護を望む声はあるが
施設介護の希望も強い


2 社会的入所と社会的入院
特養待ちの老健めぐりと老健の長期療養施設化
特養、老健待ちの社会的入院継続


3 介護施設は本当に不足しているのか


4 在宅・施設・病院の不均衡問題が在宅介護忌避を助長する
費用負担は均衡しているように見えるが、家族介護者の労働を評価していない
入院の容易性が、施設介護よりも社会的入院を選ばせる


第10章 病床過剰によるマンパワー分散がもたらす低密度医療問題(供給サイドの要因)
1 日本は先進国1の病床過剰


2 病床過剰が病床当りマンパワー不足を生み出す


3 いったん作られた病院は、収入を確保しなければならない


4 マンパワー不足では低密度医療しかできない
急性期ケアにおける日米英の違い(日本は「漫然入院」)
際立つ日本の低密度医療


5 問題は低医療費政策ではなく、診療報酬上のインセンティブ
低医療費政策が原因か
在院日数短縮化政策と長期入院是正策によって、現在の一般病床は急性期化の過渡期にある
療養病床から見た一般病床の問題点
慢性期医療には単純包括化逓減制から医療区分・ADL区分にもとづく支払いへ
療養病床では手のかかるケアは敬遠される


6 低密度医療の提供が入院医療・施設介護の需要を作り出す(供給誘導需要)
無秩序な増床が低密度医療を招いた
作られたベッドは埋まる
低密度医療の提供が医療・介護需要を作り出す
介護保険3施設はどれも認知症患者と寝たきりが多数


7 施設が高齢者医療&ケアに不適切である
現在の施設は生活機能が不十分


8 急性期のリハビリテーション医療が不十分
脳卒中モデルと廃用症候群モデル


9 一般病床が社会的入院問題のはじまり
療養病床の再編だけでは問題は解決しない
社会的入院の原因分析のまとめ


第4部 良質な高齢者医療&ケアを実現する政策
序論
1 望まれるのいは高齢者のQOLに配慮した総合的なチーム医療


2 社会的入院を解消し、良質な医療&ケアを実現するには


第11章 施設体系を再編し、高密度医療&ケアを実現する
1 看護配置基準5:1を導入し、急性期医療を充実させる
一般病床は過剰かつ高齢者が長期療養する場所としては不適切
急性期病床を創設し、マンパワーを集約する
国際基準である看護配置基準5:1の導入を
急性期病床として必要な病床はどれくらいか


2 高密度医療加算を創設し、一般病床削減のインセンティブを組み込む
一般病床維持のインセンティブを廃止する
高密度医療加算の創設を


3 急性期になれない一般病床をどうするか
回復期リハビリテーション病棟は受け皿になるか
回復期リハビリテーション病棟の存在意義は大きいものの支えるマンパワーが足りない
亜急性期病床や地域一般病床は受け皿になるか
亜急性期病床は回復期リハビリテーション病棟との差別化が必要


4 長期ケア施設は部分最適化よりも総合単純化が重要
既存の施設に、高齢者のための理想的な施設はない
長期ケア施設に機能分化が本当に必要か
米国では単純な体制が機能している
現場は、施設の単純化を支持している


5 医療介護複合施設を創設し、非急性期の一般病床、療養病床、介護施設を統合する
医療介護複合施設のイメージ
転換する施設に対しては、転換費用を含め高密度のサービスに見合った収入を保証する


6 在宅療養支援診療所・病院は社会的入院の解決策か
在宅療養支援診療所・病院とは
在宅療養支援診療所・病院の問題点


7 訪問看護ステーションは社会的入院の解決策か


第12章 在宅医療・介護を促進し、医療&ケアの質を確保する
1 在宅医療・介護の場合、自己負担率を5%にする


2 医療&ケアの質を総合的に確保するような診療報酬体系に変更する
長期入院の是正、在院日数の短縮化
質の確保に向けた動き―アウトカム評価にもとづく支払い
病院機能評価と診療報酬制度を連動させる


第13章 保険者機能を強化し、入退院の適正化を行う
1 入退院の適正化を確保する
【退院証明書の発行を義務化する】
【入院審査・退院審査制度を導入する】
【療養担当規則を改正し罰則規定を導入する】


2 延命処置等に対する本人の意思確認制度を導入する


3 被保険者への啓蒙・教育を行う


終章 国民が自ら考え判断す
1 病院は長くいる場所か


2 低密度医療しかできない病院がほしいのか


3 延命か尊厳か


4 医療のガバナンスを考える

コラム1 「社会的入院」の語源と歴史
コラム2 特定患者や医療区分1該当患者は社会的入院患者か?
コラム3 介護保険社会的入院
コラム4 介護予防システムと廃用症候群
コラム5 医療者は医療に専念したいのでは
コラム6 生活保護社会的入院
コラム7 社会的入院に関する研究の数
コラム8 ネグレクトと社会的入院
コラム9 未払いが社会的入院の原因になっている?
コラム10 「社会的入所」
コラム11 軽度な要介護状態の高齢者入居施設
コラム12 なぜ国際比較をするのか
コラム13 7:1の看護配置基準
コラム14 DCP病院制度で一般病床の社会的入院がなくなるか?
コラム15 日本看護協会の考え方


謝辞
参考文献リスト
索引

                                                                                      • -

 これまで保険者(とくに医療保険の保険者)は、保険料の徴収や保険給付といった保険財政の管理・運営に注力し、被保険者に対する情報提供面で不十分であったと言える。保険者は本来被保険者の給付状況を的確に把握できる立場にあるのだから、給付状況を分析し被保険者に必要な医療保険介護保険制度に関する知識や疾病・介護予防に関する知識などを積極的に提供するべきである。これらの努力を積極的に行えば、患者・家族の過度の病院志向や高齢者医療&ケアの理念に対する理解不足については、一定程度解消されると思われる。単に会報等で情報提供するだけでなく、受診歴を参考にしながら対象者にあった個別具体的な支援活動を展開することが必要であろう。

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