巨額年金消失。AIJ事件の深き闇

巨額年金消失。AIJ事件の深き闇 九条清隆 角川書店(2012/9/1)
目次----------------------------------------------------------------
はじめに


第1章 発覚
突然の招集     業務停止命令      驚愕の朝刊


第2章 野村のDNA
浅川の「病院伝説」     野村證券の洗礼     場立ちという仕事     アメリカでデリバティブを学ぶ     鬼っこオプション部隊     オプション取引の仕組み     コール・オプション、プット・オプションを「買う」     コール・オプション、プット・オプションを「売る」     「オプション売り」のリスク     10分間で12億円の損失     転職、そしてAIJへ     浅川との初面接     投資顧問という仕事     ある疑惑


第3章 浅川という怪物
ゆるい営業会議     「企画部長」の仕事     コンサルとの対決     損をさせてもクレームが来ない     浅川インパクト     「シゲちゃんにないしょ」の女     夜の福利厚生     口癖だった「ウソはいかん」      競馬、麻雀、カジノ      スケジュールの空白が怖い


第4章 年金基金というカモ
年金基金の悲鳴     ケイマン諸島      ふたつの転機     悪魔の道具立て     運用の素人だった浅川     他人に興味がない運用部の実態     なぜ10年も隠し通せたのか?      解約スキームの完成


第5章 終幕へ
押し寄せるマスコミ     帳票集計から見えたこと     「裏金スキーム」か「単純な損か」     解雇、そして強制捜査      証人喚問     数字と金


おわりに

                                                                                                                              • -

 私は「コンサルタントなんてろくなもんじゃない」と思っていた。
 年金基金の理事の知識不足をいいことに、意味もないポートフォリオ理論を振りかざして顧客に取り入ったヤツらだと思っていた。実際、ほとんどが証券会社出身で、よくあるパターンはまず営業で落ちこぼれ、その後運用会社に移籍、「アナリスト」とか「ファンドマネジャー」という肩書きはあるものの大した成果も出せずにあちらこちらを転々として、コンサルタントになるというものだ。理系の理論を理解していることだけが強みなのだが、ほとんどの場合営業でも運用でも実績は出していない。ブラック・ショールズ方程式など初歩的なプライスモデルをふりかざせば、顧客の前ではそれなりの格好はつくだろうが、実際のトレードを知らないコンサルタントなど、私にとって「赤子の手をひねるようなもの」だったのだ。
 私がわざわざ専門用語をおりまぜて説明すれば、それ以上の論戦を挑んでくるコンサルタントはいなかった。うっかりボロを出してクライアントの前で墓穴を掘るわけにもいかない。損失が出ているならともかく、こちらとしても「利益が出ているのだから文句はないだろう」という気持である。
 私はつねに強気でコンサルタントと対決していた。
 「これはいくらなんでも利益が出過ぎではないですか」
 「もう少し詳しく売買内容を教えてください」
 隣に座る常務理事のかわりに食い下がるコンサルタントもいたが、私はまったく相手にしていなかった。基金コンサルタントなど私の敵ではないと思っていた。
 しかし、愚かだと思っていた彼らのほうが、実は正しかったのだ。私の説明を信じ、契約してくれた基金、解約を思いとどまってくれた基金、私にやりこめられてばつの悪そうな顔をしていた基金コンサルタント。多くの顔が今私の脳裏に浮かぶ。