ソマリア沖海賊問題

ソマリア沖海賊問題 下山田聰明 成山堂書店(2012/09)
目次----------------------------------------------------------------
前文


1 ソマリア共和国
1.ソマリア共和国の概要
2.ソマリア共和国の歴史


2 海賊に関する法的規制
1.海賊行為の定義
(1)海賊行為の定義
(2)海事法に関する国際連合条約における海賊行為の定義
(3)ベスト・マネージメント・プラクティス4(BMP)における海賊行為の解説
(4)海賊行為とテロリストによる攻撃の区別とP&I保険
(5)海上保険における海賊行為の取扱
(6)海賊に関する傭船契約上の問題点
(7)国際海上物品運送契約上の問題点
(8)共同海損の問題
(9)誘拐及び身代金保険(Kidnap&Ranson Insurance)
(10)傭船者のための海賊危険保険
2.ソマリア海賊事件の概要
(1)2007年10月 日本関係船初のソマリア海賊被害
(2)2008年4月 日本船籍が銃撃被害
(3)2008年9月25日 FAINA
(4)2008年11月15日 SIRIUS STAR
(5)2009年4月 客船MELODY
(6)2009年10月12日
(7)2010年4月5日 HAMBURG BRIDGE
(8)2010年4月25日 ISUZUGAWA
(9)2010年5月6日 OCEANIC
(10)2011年3月5日 GUANABARA


3 ソマリア沖海賊問題の背景
1.無政府状態
2.貧困
3.漁業資源の乱獲
4.産業廃棄物の不法投棄
5.犯罪を行うための条件の存在
6.取引所開設(Stock Exchange)


4 海賊の手口
1.追跡
2.本船への乗り込み
3.本船制圧と身代金要求
4.身代金交渉
5.身代金の支払と受取


5 国際社会による対応
1.国連
2.各国海軍による哨戒及び護衛活動
■CTF151 ■EU NAVFOR ■NATO ■各国海軍による海賊対策(2012年2月現在、外務省による報告) ■各国独自の活動
3.統合組織
■SHADE ■MSC HOA ■UK MTO ■MARLO


6 武装したまたは非武装の見張(ガード)を乗船させる当否


7 海賊に対する日本の対応


8 海賊に対する国際運輸労働者及び全日本海員組合の対応


9 海賊に対する航行船舶の対応
1.見張り及び警戒態勢の強化
2.船橋保護の強化
3.船橋・住居区域及び機関区域への接近の規制
4.物理的防壁
5.水噴射及び泡噴射装置
6.警報
7.操船実習
8.監視カメラ
9.上甲板照明
10.船舶の道具及び設備を使用させない
11.上甲板に格納された装備の保護
12.安全な集合場所/船内避難所
13.非武装の私的海事安全請負業者について


10 私的武装保安員(Private Armed Guards)の配置
1.バハマ国
2.ベルギー王国
3.デンマーク王国
4.フランス共和国
5.ドイツ連邦共和国
6.リベリア共和国
7.オランダ王国
8.ノルウェー王国
9.シンガポール共和国
10.日本国
11.グレートブリテン及び北アイルランド連合王国
12.アメリカ合衆国
13.私的武装保安員の配乗における問題点


11 襲撃発生時の対応
(1)被害報告と救難信号
(2)回避操船
(3)乗船阻止行動


12 マラッカ海峡での海賊事件とその対応


13 結論


参考文献


資料編

                                                                                                                              • -

保険会社及び船主責任保険にとって、海賊行為かテロリストによる攻撃かの特定は重要な問題である。特定の攻撃が、保険で填補する危険または責任に入るかどうかである。
 通常の場合、純粋な海賊による攻撃/ハイジャックから発生する責任、損失、費用等は、各メンバーの保険加入条件とクラブ規則にしたがって、船主責任保険(P&I保険)の填補の範囲が決定される。
 特に海賊行為による船員等の負傷、死亡等については、従来の船主責任保険で填補される。さらには、状況により貨物に対する責任に及ぶこともある。

 ソマリアはかつては「アフリカのアマゾン」と呼ばれたほど豊かな水産資源に恵まれたソマリアの海で、海沿いの住民たちは漁業で生計を立てていた。バレ政権時代には、欧州や日本などから援助を受けて漁船や漁港の整備を行い、漁獲物を輸出していた時期もあった。
 ところが、1991年のバレ政権崩壊後、内戦の混乱に乗じて、欧州やアジアの大型漁船団がソマリアの近海に殺到、マグロや伊勢エビなどを根こそぎ獲っていった。
 国連開発計画シニアアドバイザーのデスモンド・マロイ氏は、乱獲によって失われた漁業資源の額を年間3億ドルと推定している。
 ソマリアの漁師たちは2006年に「外国の漁船団がソマリア国家の崩壊に乗じて漁業資源を略奪している」との苦情を国連に申し立てたが、再三の要求にもかかわらず国連は対応しなかった。
 2009年中にソマリアの海賊に支払われた身代金総額は推定1億5千万ドルだが、海賊達は身代金を「不当に奪われた水産資源の代金の一部」だと主張している。

 密漁よりももっと悪質なのが、産業廃棄物の不法投棄だ。それを行っていたのは欧州の産廃業者である。地元軍閥に金を払い、形式上の許可を得た上で、欧州では海上投棄が認められないような有害廃棄物を大量に投棄していた。その中には、鉛、水銀、カドミウム等の重金属、有害化学物質、さらには放射性廃棄物まで含まれていたという。
 悪事が明るみに出たきっかけは、2004年12月のクリスマスに発生して23万人の命を奪ったインド洋の大津波だった。ソマリア沿岸を襲った大津波によって、海底に投棄されたいたドラム缶やコンテナ入りの有害廃棄物が海岸に打ち上げられ、そこから有害な廃棄物が流出した。現地調査を行った国連環境計画は、廃棄物が打ち上げられた海岸の周辺住民の間に、平均値をはるかに上回る数の呼吸器障害、口腔潰瘍、異常出血、皮膚炎等が見られたと報告している。海賊達は身代金は「環境汚染に対する賠償金」であると主張している。