なぜ院長は「逃亡犯」にされたのか―見捨てられた原発直下「双葉病院」恐怖の7日間

なぜ院長は「逃亡犯」にされたのか―見捨てられた原発直下「双葉病院」恐怖の7日間 森功(著) 講談社(2012/3/13)
目次----------------------------------------------------------------
地図


プロローグ


第1章 発生―3月11日 修羅場と化した医療現場
浜通り最大の医療施設     闇に包まれた病棟     命運を分けた1500メートルの差     命をつなぐ2本の蝋燭     暗がりの緊急措置     避難指示


第2章 迷走―3月12日 バス「災害避難」の現実
バスを待つ長蛇の列     過酷な移動     直談判    役に立たない自衛隊のトラック     カーラジオのニュース     姿を見せない救出部隊     職員の解散    天国のような体育館     町長の弁明


第3章 孤立―3月12日 医師たちの覚悟
救いの神     スムーズな避難     129人の患者とともに


第4章 空白―3月13日 病院の中と外で
大活躍した看護補助夫妻     第1陣の落ち着き先     院長の怒り


第5章 裏切り―3月14日 自衛隊救出の実態
隣り合わせの死     死亡確認     第12旅団の到着    応援医師の家庭事情    置いてけぼり     消えた輸送支援隊長     オフサイトセンターからの撤退     2千マイクロシーベルトの恐怖


第6章 苦悩―3月15日「置き去り」誤報の真実
大熊町元課長の告白     たらい回しにされる患者     14人の衰弱死     突入準備    行き違い     増え続ける犠牲者


第7章 落命―3月16日 救出後の悲劇
ちぐはぐな救援オペレーション    束の間の安堵     「母をほったらかして逃げたのか」


第8章 誤報―3月17日 なぜ事実はねじ曲げられたか
闇に埋もれた真実     「乗り逃げ」隊長の言いわけ      災害対策本部の言いわけ     「事実確認はしてません」     「医師免許を剥奪する」


エピローグ

                                                                                                                              • -

双葉病院の患者80人は歩けるとはいえ、列に並んで待つという経験がない。吹きさらしのアスファルトの広場は底冷えする寒さだ。前日の雪がやみ、よく晴れて空気は澄んでいる。が、日差しは弱く、患者たちは足元から冷やされた。
 十分と経たないうちに、患者たちが尿意を催し、ナースたちに訴える。だが、広場に洗面所があるわけもない。
「もう(病院)に帰る」
 そう騒ぎだす患者もではじめた。高齢の入院患者たちは、日ごろから我慢することに慣れていないため、言い出したら譲らない。認知症などの患者は連れていなかったが、歩ける患者だけに、目を離すと列を離れ、どこかへ行方不明になる恐れもある。実際、そんな患者も出はじめ、病院のスタッフが慌てて連れ戻した。
「ちょっとこれっ、無理なんじゃない? 誰か、院長先生に聞いて来てよ」

 午後2時に209人の患者と大半の職員を送り出した院長の鈴木市朗は、すぐに次の避難車両が来るものと信じ、一人病院に残っていた。病院にはまだ129人の患者がいる。
 当初、病院長の鈴木はみずからの置かれた状況を甘く考えていたフシがある。1つには第1陣の避難により、残っているのは最も重症な東病棟の1階の患者だけだと勘違いしていた。前夜、ナースたちがデイルームに集めていた患者たちの面倒さえ見ればいい。そう思い込んでいた。
〜略〜
 思わず愚痴が出る。が、もはやどうしようもない。看護師たちはどのくらい運べるか、正確な計算もせず、比較的丈夫な患者を手当たり次第、バスに乗せていった。すぐに次の救援車両がやって来る、という前提の下でおこなった避難だ。そしてその慌ただしい避難の結果、鈴木の思っていた以上に患者が残っていたのである。
 しかも院長である鈴木は、個々の患者の状態を把握しているわけではない。そのため、まず残った患者数を数える作業からはじめなければならなかった。鈴木は苛立ちながらも、手帳を片手に病院内を見まわった。各病棟のフロアーごとに何人残っているか、それを手帳に書き留めた。
 ただし、この時点での患者数の確定は、あくまで後続の救出車両に乗せるための準備である。そして鈴木は、患者の救出にそなえた。だが、すぐに迎えに来るはずだった後続の救出部隊が、いっこうに姿を見せない。1時間、2時間、と瞬く間にときが過ぎ、時計の針は午後3時をまわる。
「これはたいへんなことになった」
 鈴木はようやく事態の深刻さが身にしみてきた。双葉病院では、東病棟と西病棟が250メートルほど離れている。ふだんはそこを渡り廊下でつないでいるのだが、地震のせいで廊下の2階部分が崩れ、通れなくなっていた。
「大丈夫、任せとけ」
 胸をたたいて事務職員の宍戸たちを送り出したが、これから一人で2つの病棟の患者の面倒を見なければならない。まさに弱り果てた。

咲-Saki-阿知賀編 くろちゃん「おまかせあれ!」
先鋒戦なんの無理ゲだよ思ったけど、ときさんすばらさんの協力もあってくろちゃんすげー。