ロシアの人口問題―人が減りつづける社会

ロシアの人口問題―人が減りつづける社会 雲和広 東洋書店(2011/10)
目次----------------------------------------------------------------
はじめに


1.人口減少社会ロシア―ソ連崩壊後の現状
1.1.連邦解体と出生率・死亡率の激変
1.2.体制移行のショックと旧社会主義諸国の経験


2.ソ連の人口動態―低出生・高死亡率社会ソ連
2.1.ソ連の人口政策
2.2.死亡率の高止まり


3.新生ロシア人口動態の背景
3.1.なぜ出生が減少するのか?
3.2.なぜ死亡が拡大するのか?
3.3.国際移動の動向


4.2000年代の人口政策
4.1.出生奨励策の導入
4.2.人口学的解釈
4.3.国家優先プロジェクト「保健」
4.4.労働力の輸入は人口減少の解決策となり得るか?


5.人口減少は止まるのか?―まとめにかえて
5.1.ジェンダー少子化
5.2.人口学的運命論


おわりに

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第二次世界大戦後のロシアにおける出生者数の増加は40歳代後半世代の膨らみに、そしてその子の世代の規模が20歳代の膨らみによって把握出来る。繰り返すがこれは2004年の人口ピラミッドであるから、21世紀初頭の時期における20歳代世代はこれよりのち(2004年以降に)出生のピークを迎えることとなる。
 つまり、何の施策を講じることなくとも、2000年代初期の10数年間はほぼ確実に粗出生率は高い値を示し続けることが当初から期待されていたのである。そもそも、「母親基金」もその他の出生奨励策も全く導入されていなかった2004年時点におけるロシア連邦統計局の予測でも、その時点から2016年まで一貫して出生数が増加することが既に見越されていた(ロシア連邦統計局『ロシア人口の自然動態』)。出生「数」は再生産年齢にある女性人口の規模によって容易に変動する。出生奨励策の効果云々は、こうした要因の影響を除去して考えなければならない。
 社会が安定した200年代に入り、1990年代の混乱期においてずっと「延期」されていた出生の、遅れてきた「駆け込み出生ラッシュ」が発生してきたことは疑う余地が無いであろう。さらに「母親基金」の政策的影響により2007年以降の出生率の上昇が生じたのであるとすれば、これは単に将来あり得た出生が早められたに過ぎず、そののちの出生率の低下が見られるという可能性も十分ある。こうした現象を人口学では「タイミング効果」と呼ぶ。「母親基金」の提供は2016年までの出生に限られていることに鑑みれば、本来2016年よりも後に予定していたはずの出生が早められて生じるかも知れない、ということである。2010年・2011年におけるロシア連邦統計局予測は2004年段階のものから改訂されており、総出生数の増加が(2004年段階の統計局予測で示された2016年ではなく)2011年に終わりを見せるものとしている。これはロシア連邦統計局が将来人口予測を行うにあたって「タイミング効果」を考慮していることに他ならない。
 繰り返すが、育児に対する手当の給付は、出産の「タイミング」に影響を与えることは知られている。だが手当給付によって長期的に高い出生率を安定的に維持したと目される事例は存在しないのである。タイミングに影響を与えることによって一時的に出生率は上昇する。だがそれは、将来に予定していたはずの出産の実現を早めてしまう「タイミング効果」が存在することにより、そのあとの時期における急速な出生率の低下を伴いがちなのである。

大事なことなので2回いいましたわ。