日本は、サッカーの国になれたか。電通の格闘。

日本は、サッカーの国になれたか。電通の格闘。 濱口博行 朝日新聞出版(2010/6/11)
目次----------------------------------------------------------------
序章 サッカー史を紡ぐ糸、電通の足跡


第1章 サッカーはメディア!サッカーの放つ輝きを知る
初プロジェクトで約8万人の大観衆が熱狂     英語ができずひと回り近くの年下後輩が激怒!    直接交渉で33人の名選手たちと契約    結束を強固にしたミスター「ノー・プロブレム」    試合直前に国際的大問題が発覚    「サッカーはメディアである」という確信


第2章 サッカーという新ビジネスの開拓者
野球全盛時代、高校サッカーから改革に着手    わずか10分で日本テレビとの共同事業が決定    難題克服、初年度で「全国の8割をカバー」    「広告会社ごときが何を偉そうにしとるんじゃ!」という怒号    「サッカーはメディアである」という助言を具現化


第3章 日本サッカービジネス界の黎明期
「王様」ペレの引退試合が財政難のJFAを救う    日本代表強化という課題への挑戦    FIFAから感謝!FIFAワールドユースの大成功    日本開催否決から「世界一決定戦」の招致を実現


第4章 ISL−巨大スポーツマーケティング会社の盛衰
FIFAとの激論がISL設立へ    数10億円という出資金を勇断    24時間、延々と続く交渉の日々    急激な拡大投資による破綻と危機管理


第5章 日韓共催! 2002年FIFAワールドカップ招致の道のり
日本招致というドン・キホーテ的発案    アジアのサッカービジネスの幕開け    国益を意識しFIFAワールドカップ日本招致委員会へ出向    史上初の招致を巡り日韓両国が激突    UEFA会長は日本との接触を徹底拒否    「consider(考慮に入れている)」で一縷の望みに懸け    日韓の友好関係を目指して、ひとりの人間として向き合う


第6章 権利ビジネスの結実、FIFAクラブワールドカップ
FIFAクラブ世界選手権の挑戦は大失敗    閉塞感が漂い始めていたトヨタカップ    継続か吸収拡大か、的確な判断が求められた電通    知名度の低いクラブの集客方法    電通の手掛けるビジネスをFIFAが高評価


第7章 可能性を信じ東アジアサッカー連盟設立
アジアの尊厳が軽視された心痛を新たな原動力に    新連盟EAFFは数億円のマイナス収支から始動    欧州クラブはアジアをマーケットとして有望視


第8章 情熱と意志、進取果敢でビジネスを拓け
サッカーの全世界におけるビジネス化    グラスルーツの養成こそマーケット拡大を推進    チャレンジ精神やハングリー精神こそ人間の活動の源   堂々と世界に貢献する覇気雄心を抱け


あとがき

                                                                                                                              • -

 そもそも、90年代後半からトヨタカップにはある種の閉塞感が漂い始めていた。結論から言うと、欧州対南米という構図が揺らいだためだ。大きな要因の一つには92‐93シーズンにチャンピオンズカップチャンピオンズリーグに発展した影響がある。第4章で述べたとおり、世界的なスポーツマーケティング会社ISLと袂を分かちTEAMを設立したクラウス・ヘンペルが欧州サッカー連盟UEFA)と協力して始動させたチャンピオンズリーグは、それまでの規模を超越。トーナメント方式で行われていた従来の形式に予選リーグを導入し参加チームを増やして大会を拡充させた。スケールの拡大により注目度の向上に成功すると、必然的に、テレビ放映権、スポンサー収入、入場料などUEFAの収益は激増する。UEFAからクラブへの分配金も増加した上、出場ボーナスに加え引き分け以上で更なるボーナス賞金が得られる構造が形成され・・・もちろん優勝賞金も存在する・・・勝利と収入が比例していく。4年に一度のワールドカップとは違いチャンピオンズリーグは毎年開催され、決勝戦まで残るような強いクラブであれば毎年多くの収益を獲得できる。潤沢な資金を得た欧州の強豪は更なる選手補強を実行し、高い質を誇るトップチームが2つも構成できるような戦力を擁するようになった。
 更に、95年12月に欧州司法裁判所が下したいわゆるボスマン判決も欧州のクラブに優位に働く。この採択によりヨーロッパ連合EU)加盟国の国籍をもつ選手がクラブとの契約を完了した場合、EU内の別のクラブへ自由に移籍できるようになり、「EU内のクラブはEU加盟国籍を持つ選手を外国籍扱いにできない」という法律も作られた。この法律を欧州の各クラブは巧みに利用する。移民の多い南米生まれの選手たちの系図をさかのぼって欧州の出自である事実を突き止め、二重国籍を所有させたのである。結果、EU加盟国籍も持つ南米選手がEU内のクラブへ数多く流入。欧州と南米の格差は確実に広がった。
 チャンピオンズリーグで勝ち進むことで財政面を充実させた欧州のビッグクラブは、移籍の自由化が是認された利点も活用し毎年のように大型補強に動く。気付けばトヨタカップ創設時の欧州対南米という対立図は完全に崩れ、世界選抜対南米という対峙の構造ができ上がっていた。

我々はこうしたことをIS(インフィニット・ストラトス)現象と呼んでいる。 シャルちゃん無双。