ある朝鮮総督府警察官僚の回想
ある朝鮮総督府警察官僚の回想 坪井幸生 草思社(2004/11)
目次
まえがき
第1章 少年時代の転換
実業家に転身した父の挫折 ふるさとち永別した夏休み ひそかに出した受験志願書 初めて見る大都会、京城 思いがけず難関を突破第2章 京城帝国大学
生涯の師父、津田栄先生との出会い 田舎中学出身者、存在感を示す 閔復基君の「内鮮学友阿呆陀羅教」 錚々たる教授陣、少人数の学生 「滝川事件」と「三宅教授事件」 尾高朝雄先生のこと 官途に就いて国運の発展に関与すべし第3章 官僚生活のはじまり
高等文官試験行政科に合格 総督府同期生の運命の分かれ道 講習所で警察幹部候補生を教える第4章 対ソ防諜工作 咸鏡北道外事警察課長:総督府保安課事務官
「目に見えぬ戦い」の最前線へ 戦時下朝鮮に不穏分子の策動なし 防諜戦を転換させた朝鮮人スパイ 赤軍の工作員養成法を知る 現地指令者の正体は総領事 無線電波を監聴せよ 逆用スパイたちのその後 勲六等の最年長二等兵第5章 忠清北道警察部長
赴任二ヶ月で接したソ連侵攻の報 太極旗に作り変えられた日の丸 治安の悪化、軍との軋轢 清州発の最後の引揚げ列車を見送る 大田経由で釜山港へ第6章 わが人生の「朝鮮」の終わり
晩秋の博多港へ着岸する 父の死とともに終わった昭和二十年 「引揚者協生会」結成と後味の悪い結末 反日独立の闘士、花形となる 窮乏のときに見た白昼夢 敗戦から一年、鹿児島県警務課長に私的「朝鮮」 戦後日韓交友録
「第三国人」と北朝鮮帰国者 韓国政府代表となった旧友の来日 京城からソウルへの旧懐旅行あとがき
解説 「歴史の証人」のメッセージから学ぶべきこと〔荒木信子〕
著者官公職略歴(抄)
朝鮮人クラスメートニ十人のうちの数人が、北朝鮮側に与したというのであった。その名前を聞けば、みないい男であり、親しくしていた仲間であった。なかでも徐載元君は、名門両班の出自で、高文司法科に合格したが官途に就かず、民間で弁護士となっていた。彼の処世態度からすれば、心中ひそかに共産主義を信条としていたということも納得できた。
しかし、金正済君についはまったく意外というほかはなかった。彼は大学卒業後、少し遅れて高文行政科に合格したが、昭和十八、九(1943、44)年頃に首都の北部に京城城北警察署が新設され、その初代署長に簡抜けされて就任したのであった。明朗闊達、好漢の印象が強かった友人である。
彼は北朝鮮に投じたのち、南に潜入することを特命された。その能力と経験を利用して機密情報を収集、復命することが指令された。彼はソウルまで潜入して目的を達し、無事帰北したらしい。しかし、苛酷にも北朝鮮の諜報当局は彼に二度目の潜入、偵察を厳命した。彼はしれに服従し、ソウル市内で隠密活動中に韓国の警察に発見、逮捕されたのである。
当時の韓国の国家保安法は峻厳をきわめていた。彼はその違反者として起訴された。その起訴責任者(検事正に相当)が大学の同級生、閔復基君であった。そして李天祥君が主任弁護人となり、弁護士の立場から悲運のクラスメートのために尽力したということであった。しかし、金正済君は死刑となった。
Angel Beats!2話 ゆりっぺ「だって、理不尽すぎるじゃない」