ウォルマートの新興市場参入戦略

お目ものーと
ウォルマートの新興市場参入戦略―中南米で存在感を増すグローバル・リテイラー(ストラテジー選書4) 丸谷雄一郎 著 大澤武志 著 戦略研究学会編 三浦俊彦監修 芙蓉書房出版 (2008/08)

 つまり、グローバル・リテイラーの実際の店舗展開は、とても地球規模あるいは世界的とはいえず、現在までのところ、グローバル・リテイラーは自国以外に店舗を展開する小売業者といったくらいの意味合いを持っているに過ぎず、グローバルな店舗展開を目指すといった意味で捉えても、実際にはほとんど存在しないのである。

 BOP市場の中の最貧困層である約一〇億人は一日一ドル未満の非常に苦しい生活を強いられており、すぐに市場として捉えるのは難しい。しかし、残りのBOP市場を構成する三〇億人は、他の豊かな階層に比べて、銀行口座、通信手段、電力、水道など基本インフラが整っておらず、正規でないインフォーマルな市場しかないがゆえに、高いコストを強いられている。そして、一部の多国籍企業はこうした課題を克服し、人々のニーズに適切に対応し、成功を治めているのである。

 開放政策による規制緩和は、ワシントン・コンセンサスの世界的な普及に伴って発展途上国において行われた。小売業は雇用効果が大きいため、規制緩和の対象からはずされる傾向にあった。しかし、多くの債務を抱えた発展途上国の多くは、世界銀行国際通貨基金などの国際金融機関からの働きかけによって、一九九〇年代に聖域の一つであった小売業をも自由化したのである。このことは先進国が規制強化を行ったのとは対照的であった。

 ウォルマートは既述のように、ドイツ、韓国から撤退し、軸足を明らかに新興市場であるBRICsなどの新興市場に移そうとしている。今回の西友の完全子会社化という行動自体は、少なくとも売却において損失を強いられる利害関係者を少なくする行為である。ドイツ、韓国からの撤退決定の年数を踏まえると、ウォルマートに残された時間は長くはないと考えられ、日本市場からの撤退は、優良な小売企業を買収できるなど、よほどの業績回復の可能性が見られない限りは避けられないと考えるのが妥当といえよう。

 こうした保護主義政策(一九六〇年代までの輸入代替工業化政策)は対外競争を生まないので、工業は国際競争力を失い、国内市場も小さいため早期に成長の限界を迎えた。そして、幼稚な国内産業は中間財需要を完全に充足できず、工業製品を生産するための機械、設備、中間財の輸入や技術導入に多額の対外支出を必要としたために、経常収支は慢性的な赤字となった。

 ウォルマートのメキシコ進出における成功は、欧米の文献いおいても頻繁の取りあげられている。その多くはパートナーの選択の適切さや参入する際のタイミングといった部分に焦点をあてており、こうした要素が市場参入段階において重要であったことは間違いない。

 ラテンアメリカ・カリブ地域の主な投資パターンは、①メキシコ及びカリブ諸国の製造業部門に代表される生産効率確保型投資、②ブラジルを中心とする南米諸国への現地市場確保型投資、③ベネズエラなどにみられる天然資源開発型投資の三つに区分される。しかし、中米諸国は、いずれのパターンにも該当せず、独自の投資環境の創出が求められ、結果として海外送金のウエートが高くなる傾向にある。

 地方、昨年来のサブプライム・ローン問題を決機とした米国経済の不況が深刻さを増す中、海外送金を可能としてきた前提が崩れようとしている。海外送金を行っている人々の多くは、不安定な雇用形態によって労働に従事しており、彼らが職を失うことは送金額に影響してしまい、せっかく芽生えつつあった中米諸国の対消費者ビジネスの芽を摘むことになるだけに、米国経済の先行きが懸念される。

 ウォルマートは従来の名称で各店舗の在庫管理レベルを向上させていきながら、グローバルな商品供給力を利用して、商品供給の部分で関与を高めていくとみられる。実際に、ウォルマートは進出後すぐにグアテマラにおいて、現地先住民農業組合Labradores Mayaと協力して、生産農産物の履歴管理を導入し、彼らは厳格な衛生基準に準拠した生産野菜の供給を行うことが可能になっており、現地向けだけではなく、ニカラグアホンジュラスなどグアテマラ以外の中米諸国、米国さらには全世界に向けた野菜の供給地にするための取り組みを行っている。

 この幹部(Wal-Mart Guatemala社)によれば、コスタリカを除く地域のウォルマートを利用する可能性が高い階層は、海外送金に依存していることが多く、海外送金への対応は低所得階層の取り込みを考えても有用な手段と考えられる。
 同社は彼らの要望に対応し、海外送金を店舗内で容易に引き出すため、店舗に、海外送金サービス(Money Gram社、Western Union社及び民間金融機関等の送金サービス)の利用窓口及びATM等を設置した。さらに、エルサルバドル系金融機関のクスカトラン銀行と提携して、系列店舗でのみ利用可能な専用クレジットカード(Super Sencillo)や自社クレジットカード1(Paiz)の発行を行っている。