秘録・日韓1兆円資金 小倉和夫 講談社(2013/1/24)


目次----------------------------------------------------------------
まえがき―日韓関係の「隠された部分」に光を


第1章 軍事政権の要求
電報に記された驚愕の内容
軍事クーデターで生まれた政権と日本は
「日韓関係見直し論」
金大中事件の余波、鈴木内閣の体質
韓国側からの唐突な要請の中身
韓国側からの唐突な要請の中身
飯倉公館での反撃
反日教育を受けた世代の思い
日米同盟をめぐる混乱
米国を動かす韓国
朴政権とは違った形の日韓関係を
100億ドルが必要な理由
韓国の「体面」外交
再延期された外相会談の顛末
北の「要人」の日本訪問問題


第2章 日韓に横たわる深い溝
外相会談、再び
韓日政府の面子
韓国側の硬直的な態度の背景
当惑する日本政府
対韓経済協力の「論理」
韓国政府の内情


第3章 外相たちの「哲学」
荒れる外相会談
割って入る小姑こそ憎い
「冷めた」夕食会
深夜の帝国ホテルで
日韓両大臣に残った疑り
韓国外相の我田引水
園田外相に手渡された書類の中身
外相の奇襲
全斗煥政権へのアレルギー
軍事目的の経済協力はできない
韓国の立場の深層


第4章 韓国の「克日」
4つの次元の会議
経済企画庁長官同士の会談で
金額ばかりいう韓国外相
韓国の「非礼」
園田外相試案の中身
「40億ドル以下では殺されます」
渡辺蔵相の「日本政府は貧しい」
全斗煥の「克日」とは何か
政治的、軍事的な経済協力とは
軍人大統領vs.自民党リベラル派
軍事協力でも従来の経済協力でもない
ジャーナリスト出身政治家の裏工作


第5章 全斗煥瀬島龍三
内閣改造で日本は
非公式ルートの始動
裏舞台に登場した人物
韓国の大人気ない態度に対し日本は
中所得国の韓国になぜ援助を
経済的ではない経済協力とは
陰の涙
実務者会談という「芝居」


第6章 偽造されかけた親書
韓国が固執した借款とは
全大統領と直接話し合える大物特使
外務省の真意をさぐる竹下登
背中に鳴る竹刀の記憶
「署名だけ誰か真似のうまい奴がやれ」


第7章 「最終案」行方
トンカツ屋での密談
関係省庁会議という狸ばやし
日本の「最終案」の中身
「この程度では国内が爆発する」
日本側の譲歩の限界


第8章 親日反日のはざまで
「名家」出身者の利点
新しい韓国外相の役割
前外相の評判
大臣執務室の外相会談で
「金を借りるほうが居丈高になるのは」
不惜身命の裏側
ねばり続ける韓国


第9章 ニューヨーク会談で見えた薄光
教科書問題の余震
日本側が突きつけた2つの条件
日本語を批判された韓国外相
異常な韓国外相の発言
桜内外相の無念


第10章 瀬島龍三の裏工作
中曽根首相が瀬島に依頼したこと
釜山の空港のVIPルームで
戦時中を回想して瀬島は
瀬島が見た商社のやり方、官庁のやり方
秘密工作を隠すために
マスコミへの隠蔽工作


終章 終幕―ソウルの初雪
中曽根首相の電撃的訪韓
中曽根と全斗煥の見解の相違
1兆円は謝罪の印か
安倍外相は竹島問題で
日韓の認識の差を中曽根は
決着の声明文
政治的「お化粧」とは何か
中曽根の韓国語での挨拶
「こんな不名誉なことはできない」
政治的ご祝儀の結末


あとがき―日韓のドラマは続いている

                                                                                                                              • -

 盧は、この瞬間、あるいは、最近読んだ小村寿太郎の伝記を想起していたのかもしれない。
 日露の講和会議に臨む小村の立場は苦しかった。日本の戦費は底をつき、戦争継続は不可能に近かった。
 しかし、それを知っていたのは政府の元老たちだけで、国民は連戦連勝に酔いしれていた。多大の成果を期待する国民の声と、絶対に講和をまとめざるを得ない国家の苦しい立場との板ばさみにあって、小村が苦悩することは誰よりも本人がよく知っていた。
 しかし小村には5指に僅かに余るほどであったとはいえ、その苦悩を理解する元老たちがいた。いま、60億ドルはおろか、100億ドルですら当然、日本は韓国に供与すべきだとする韓国の世論や青瓦台の大統領側近たちの圧力を一方とし、そんな金額は問題にならぬとする日本の立場を他方とる溝にはさまって苦悩する盧。その彼に対し、足を引っぱり、体を引きずり下ろそうとする者こそあれ「お前の苦しみは誰よりもよく分かる」といってくれる人間が果たして何人、韓国政府のなかにいるであろうか―小村の苦悩を描いた『ポーツマスの旗』の1節を想起すれば、盧がそのような絶望感に似た苦悩を感じていたとしても不思議ではなかった。

変革?お前らはそう言ってるのか?