原発推進者の無念―避難所生活で考え直したこと

原発推進者の無念―避難所生活で考え直したこと 北村俊郎 平凡社(2011/10/17)
目次----------------------------------------------------------------
第1部 原発事故に遭う


序章 震災、原発から逃げる
3月11日―地面にしゃがみこんだ
3月12日―交差点の白い防護服
3月13日―2人で1つのカップ
3月14日―深夜の逃避行
3月15日―ふたたび川内、そして郡山へ
3月16日―猛烈に寒い、ビッグパレット最初の夜


第1章 避難所ビックパレット
1 大混雑の避難所―4月上旬
4月4日―ビッグパレット     宿泊     風呂―練馬の湯     食事
4月5日―電話、テレビなど     退屈しのぎ      救護所     原発への賛否     消費期限切れのパン     子供たちの登校
4月6日―東電への人々の感情     掲示板     町の対策本部     旅館暮らし     ペット
4月7日―トイレ、洗面所、洗濯    買い物     交通手段
4月8日―余震     今の町の様子
4月9日―衛生状態     ボランティア     消防団
4月10日―金の問題     痛ましい話     ストレスといざこざ

2 避難からひと月たって―4月中旬
4月11日―1カ月経過したのに     飯館村のこと     情報はどこから
4月12日―東京に行くには     ノロウイルス
4月13日―ちょっとおかしい     仕事の話
4月14日―菅総理発言     仮庁舎     駐車場
4月15日―犬の散歩     救急車     なぞ    子供たちの学校生活     洗濯機問題     借り上げ住宅を持つ家族     郡山市の様子
4月16日―2週間後に到着     補償金の仮払い     罰則はない     貼紙行政    ダンボールの家
4月17日―収束までの道筋     苛立ちのもと    毛布
4月18日―人口密度     夜の衣類整理     気持ちの余裕    義援金の申請    館内移動     地震と道路

3 さらに続く避難―4月下旬
4月19日―余震の怖さ    奪われた自由    県とのやりとり
4月20日―補償金仮払い    仮払い補償金の手続き    様変わり
4月21日―帰宅ラッシュ
4月22日―はじめてのコンビニ弁当     立ち入り制限
4月23日―杓子定規     弁当の配布を待つ人たちの会話     借り上げ住宅

4 初夏を迎えて
大熊町の旅館生活     我慢強さの秘密     救われない風評被害     働くことを忘れる     多くの人が避難所を去って     6点セットがきた     原子力災害とお笑い芸人

5 一時帰宅
やっと実現した一時帰宅     わが家の様子     一時帰宅が伝えたこと


第2章 避難所で考えたこと
1 避難
マットと仕切り     「自主避難」のあいまいさ     私の町―富岡町津波     弱い人たちの避難先     心の栄養    要介護者のケア

2 暮らしは自分たちの手で
仮説よりも賃貸     ちぐはぐなやり方    原発なみの管理が必要    生活費に関する不公平感     支援の思いがけない影響

3 行政
忘れられた双葉郡    原発災害と政府広報     役所間の上下関係     縦割りの弊害    役場の窓口対応

4 補償
かつて暮らしていた町     補償の対象     3.11以前の生活水準の維持     精神的苦痛は減らい     被害を減らす対応を急いで     損害の確定は、「すべてが終わってから」

5  未来に向けて
町の存続の危機     故郷とコミュニティをどう復興するか     周辺の町では     決断の日    立地町の復興のカギはやはり原発


第2部 原発を考える

第1章 知られざる原子力の世界
ヨーロッパからアジアへ     原子力に対する対照的な考え方    原子力の将来性    世界規模の閉鎖社会     原子力業界の実像     原発にかかわっている人たち     多層構造の問題     原子力を財政面で支えた電力会社     電力経営体質と原発     原子力屋のロマンと原子力政策の行き詰まり


第2章 原子力と安全
安全・安心などと言ってはいけない     安全の研究     確率論の落とし穴     やっかいなものという認識     ベローズの執念     原子力関係者が陥った罠     古い設計と新たな知見     形式主義―現場、現物より書類、アリバイづくり     プロフェッショナリズム     外的要因による事故     アメリカ発の設計

第3章 致命的なリアルさの不足
反省すべき想定の甘さ     ハードルを下げた罪      日本とフランスの差     立ち消えになった対策     もろかったオフサイトセンター     通信途絶、事業者の責任     NHKの自負     避難のための輸送手段     慣れ


第4章 原子力の本当の怖さ
BOPとは何か     燃料棒の怖さ     原子力災害の実像    不安感のもと     食物汚染の被害


第5章 原発の条件
原発の経済的優位性が失われる     過保護より適度な競争      事故対応のためのマンパワー    経営感覚の問題     閉じこもってはいけない     「基準に従ってつくった」でよいか


第6章 原子力関係者の責務
世界に学び続ける謙虚さを     体制の再構築を     原発停止の影響     烙印を押される原発     最高レベルの安全対策の中身は何か      大組織の弊害対策を      ひと言あってしかるべき     アポロ計画にならう      原発の社会性を忘れるな     原子力国営の心配     監督官庁の体質     歴史に学ばぬ人たち


補償問題についての追記


おわりに

                                                                                                                              • -

 旅館やホテル、借り上げ住宅に移る人がいるのに、ビッグパレットに避難している人数はあまり変化がない。いったん親戚や知人を頼って行った人や、新潟など遠くまで避難した人たちが戻ってきているのだ。無料電話コーナーに行くとそうした人が愚痴をこぼしている。親戚が来いといってくれたので世話になったが、よかったのは最初の2、3日で、その後は互いに気を遣いすぎてストレスとなり、体調を崩したので出てきてしまったのだという。親子や兄弟でも、普段、離れて暮らしていると、このような問題が起きる。こうした例はたいへんよく聞いた。
 避難所でも隣との境がなく、せいぜいダンボール1枚の衝立である。最初は仲よくしていても、寝てからのいびきやラジオがうるさいとか、噂話などで気まずくなる。物資もあの人がたくさん取ったとか、何も協力しないとかいう話になる。大喧嘩はないがしだいに雰囲気が悪くなる。ストレスから酒を飲み、酔っ払って別室に隔離されたり、暴れて退去させられた人もいる。タバコは館内禁煙だが、飲酒は禁止されていない。いずれにしても子供にはよい環境ではない。

住居に関して、現在までに県の対策本部が打った手はいくつかある。借り上げ住宅、仮設住宅日本赤十字社からは生活家電6点セットの寄贈)、旅館やホテルへの3カ月間の二次避難である。ビッグパレットにいる人々の多くは、これら全部に申し込みをしている。ただし、すべてに条件がついている。それは75歳以上の高齢者がいる家族、妊婦や乳児がいる家族、難病の人がいる家族、要介護者がいる家族、3歳以上15歳未満の子供が3人以上いる家族が優先であるということ。
 残念ながらいずれの施策も、ビッグパレットで見ている限りでは、1か月ほどはなかなか進まなかった。
 さらに5月1日からは、自分で賃家を借りた人にも、家賃月額6万円まで補助するという制度が発表された。これで自分で貸家を探せばよいと思ったが、これにも先の条件がついていて、それ以外の人は後回しなのだ。これでどれだけの家族が救えるというのだろうかと思っていたら、すぐに条件をを満たさない人もどんどん対象にするようになった。また、5月14日からは家族5人以上の家賃補助は、9万円に引き上げられた。
 富岡町川内村の人口をあわせると2万人弱。避難所に入ってる人は2割程度だ。あとの8割の人は親戚・知人を頼って、県内各地あるいは関東地方などに移ったか、郡山市など中通りいわき市周辺などに貸家を探して自費を投じて住んでいるかである。ほとんどの人は家族が病気がち、75歳には達していないが高齢、子供の学校問題、ペットを連れて行けないなどさまざまな理由から、そして若干の経済的余裕があったために、自費でアパートや家を借りたのだ。
 この場合、光熱水道料も食費もすべて自費だ。自分の家があるが戻れないためにやむを得ずそうしたのであり、贅沢をしているとは思わない。1日5000円の補助のある旅館やホテルこそ贅沢だ。こうした不公平があっていいものかと思う。
 県が示す優先順位や条件は、ほとんどの避難者をはじいて対象者を絞り、予算を使わないようにしているのではないかとさえ思える。ハンディのある人を優先することは間違いではない。だが、それで当り前の行動をしたほとんどの人を救えないのでは、救済制度とはいえないのではないか。ビッグパレットのような避難所生活をしてりる人には、宿泊費相当分を支給するという話も出ているが、そうなると国や県の制度が整わないうちに、避難所生活に耐えられずに民間の貸家を借りた人たちが一番馬鹿を見ることになりそうだ。

GA 芸術科アートデザインクラス エンディングテーマ「ココロいろ palettes」
『「いつものわたしたち」はひたすらに 好きなこと学ぶんで考えたり楽しむばかりなんだ 明日はわからない夢が待ってる白い空はカンバス 見えない未来それぞれにひとつひとつが見つけ出してくカラ一、ココロ増えていく いつかは、出来ないこと出来ていて成長を感じて積み重ねて大人になっていくんだ 今日はゆるやかな風が吹いている青空は変わらない 見えない未来それぞれにひとつひとつが見つけ出してくカラ一 同じ瞬間、同じ場所から見ていたひとつの空 芸術のいろはたくさん、重ね塗りしてカタチ変えてくパレット、ココロ染めていく♪』