経済大陸アフリカ

経済大陸アフリカ 平野克己 中央公論新社(2013/1/24)
目次----------------------------------------------------------------
はじめに


第1章 中国のアフリカ攻勢
開発途上国にして経済大国     資源需要の拡大     資源暴食     中国の戦略     アフリカ走出去、始動     中国の「先見の明」     元首のアフリカ歴訪     対アフリカ政策文書     破竹の資金投入―北京宣言     援助と投資     アフリカの対中投資      外資との提携      中国版マーシャルプラン      シャルムエルシャイク行動計画      中国がアフリカをかえる     対アフリカ輸出      中国が問題をひきおこす      中国進出をめぐる事件    中国に対する警戒      中国のアフリカ政策は新植民地主義か     的外れな中国批判      中国との協調      ビジネス=援助ミックス      欧米諸国とは異なる道      自立にむかうアンゴラ


第2章 資源開発がアフリカをかえる
資源高時代の到来      レアアースショック      日本もアフリカに活路を      対アフリカ投資の拡大―メガプロジェクト時代      世界の投資はどのように展開してきたか      開発なき成長―赤道ギニア     アフリカ経済と原油価格の原油価格の相関性      消費爆発が示すアフリカの姿      資源の呪い、資源の罠      アフリカは呪われているのか         ガバナンスの改善と経済の成長      アフリカのイスラーム武装勢力


第3章 食糧安全保障をおびやかす震源
世界の農産物貿易      穀物の特殊性     穀物輸入大国の日本      日本をこえたアフリカの穀物輸入      増えつづける負担、貧しいままの農民     停滞するアフリカの食糧生産      土地生産性は世界平均の3分の一以下     なぜアフリカでは生産性が停滞したか      低投入低収量農業      肥料という資源      農業の低開発は工業化を阻止する     唯一の例外モーリシャス      ランドグラブ      食糧自給への道      アフリカに農業開発は根づくか


第4章 試行錯誤をくりかえしてきた国際開発
国際開発という理念     ODAは国際開発の手段たりえているか     ポスト植民地政策としてのスタート      アメリカの“本音と建前”     日本の経済協力とその変質     アメリカの援助政策論理とはなにか      経済開発からBHNへ      ケネディ政権からニクソン政権へ      南北問題における援助論      ロメ協定の誕生      南北問題テーゼの挫折     NIES研究がかえた開発論     構造調整     ネオリベラリズムとの相克     南北問題からアフリカ問題へ     開発の理念は「人間の安全保障」へ       ODAはなぜふたたび増えたのか       援助政策の“理想と現実”     ODAによって経済成長を始動できるか     ODAは国際福祉政策たりうるか      社会政策とODAの矛盾     評価されない日本の巨額のODA     新世紀のODA


第5章 グローバル企業は国家をこえて
南アフリカの先行、牽引     サンラム・グループの挑戦     ギルバートソンの辣腕     南アフリカ白人の企業家精神     資源分野以外のアフリカビジネス     アフリカの潜在需要にのって急成長する企業      南アフリカ以外の企業はどうか      母国で起業するということ      先進国企業の投資      BOPビジネス     “消費”を開発する     貧困ビジネスCSR     「拡大CSR」という防衛策      グローバル化するなかでいかに働くか     企業が国境をこえるということ


第6章 日本とアフリカ
人口ボーナスの喪失     東アジアの問題     内向経済    アフリカは日本を救うか    官民連携はなぜ必要か     21世紀をいきのこる企業     相互利益の実現にむけて


あとがき


主要参考文献

                                                                                                                              • -

 資源価格の上昇による輸出収入の増加は他律的で、しかも資源輸出国すべてに裨益するから、南北問題テーゼの想定どおりだ。地方、東アジア諸国における輸出指向型工業化においては他国の市場で競争に勝たなければならず、市場競争での勝者に対する報酬として経済成長が実現する。したがって、自律的で国内政策重視の開発戦略が必要とされる。ふたたびネオリベラリズムの政策勧告が開発途上国の国内解放に焦点があてられるのに対して、「開発の政治経済学」では国外市場への進出が重視される。このちがいはたいへん重要である。ネオリベラリズムの議論は開発途上国の市場を先進国企業にとって参入しやすくするという志向が強く、逆の観点はきわめて希薄だ。
 さてそうなると、ODA開発途上国の経済成長を始動することが可能かという設問にはとてもひかめにこたえなくてはならないだろう。ドナー各国が拠出できるODAの額は資源価格の上昇がもたらす輸出収入にはとてもおよばない。日本の貿易は資源高によって多大な影響をこうむったが、自国の経済をあやうくしてまでODAを拡張する国などない。かつて不可能ではないかとさえささやかれていたアフリカの経済成長は、資源価格の高騰であっさりと実現してしまった。バーグ報告(181ページ)の政策文書としての重要性はアフリカ開発史において巨大だが、アフリカ経済におよぼした実際の影響という点では、資源価格の変動に遠くおよばない。