情報化時代の戦闘の科学 軍事OR入門

お目ものーと
情報化時代の戦闘の科学 軍事OR入門 飯田耕司 三恵社 (2004/10/20)
を読書。だがしかし改訂版が↓
改訂版 情報化時代の戦闘の科学 軍事OR入門 飯田耕司 三恵社(2008/9/10)

技術立国を標榜するわが国において軍事技術の分野では(要素技術は別として)システムと称する装備品には国産品は全くないと言っても過言ではない。特に大きなシステム(例えば指揮・統制・通信・コンピュータ・情報システム C4I system:Command,Control,Communication,Computer and Intelligence system) に関連する装備については国産のものはない

第二次大戦中、米海軍のORグループを指導してOR活動の第一歩を創めたMorse博士の次の文章によって言い尽くされている。
「ORは、名人芸ではなく、教育可能な、公認され、組織化された活動である。」

従来の高射砲陣地配備の原則:「火網の地理平面上のカバーの完全性」はあまり意味のない幻想にすぎず、全ての砲にレーダーの情報を与えることの方がはるかに重要であることが分かったからである。

しかしながらこの数値は上記の攻撃時の実情とかなり異なるものであり、爆雷の深度調定が深すぎたために有効弾(危害半径6m)とはならないケースが多かったことが判明した。

彼が携えたブラック・ボックスの中には、これまで英国の英知を傾け、技術者達が心血を注いで研究・開発してきた新兵器:ソナー、レーダー、航空機用旋回砲塔、射撃管制装置、ジェット・エンジン、大出力マグネトロン等々の設計図や資料が一杯に詰め込まれていたという。米国はTizard使節団の提案を受け入れて、これらの新兵器を戦力化して前線に供給するためにNDRCが迅速に活動し、研究管理体制を造り上げた。

なおこの日本への機雷封鎖作戦は、当時既に完成していた潜水艦による海上封鎖網に比較して非常に効率的であったと報告されている。

日本ではOR学会と類似の研究分野の学会として、日本経営工学会、経営情報学会、情報処理学会、計測自動制御学会、日本シュミレーション&ゲーミング学会等々、システムの分析研究をテーマとする多くの学会が盛んに活動している。

OR・SAのブームが商売と結びつき官公庁が定量的分析に塗り潰されたとき、ORはまさしく浪花節を数字で語り、虚偽を"dress it up with science " する道具となる危険性があることも否めない事実である。IEテーラー・システムの「山師達」の苦い経験は記憶に新しいが、これは決して過去のことではなかった。

注目すべき研究事例として航空機の生産予測問題が報告されている。原材料の生産量と航空機工場の能力のみによる従来の予測法ではなく、2次、3次の関連業種の生産活動の循環構造を考慮し、W.W.Leontiefの産業連関分析に似た手法で13の関連産業を関連づけて分析した結果、南方からの輸送船舶の高い被害率の条件下では、従来の予測の1/10程度しか生産できないという現実に近い分析結果を得た。この分析手法は初期のレオンチェフの産業連関モデルよりも巧妙であったと言われている。

OR分析チームは常に戦場あった。またそのOR分析チームの派遣を要請したのは第一線の指揮官達であった。即ち彼らのOR活動は第一線の砲火の中で血をもってデータを購いつつ、急迫する切実なる戦術問題との格闘を通じて成長を遂げ、その結果の蓄積に基づいてマクロな「軍事−政治分析」や国防予算策定のPPBS等に拡大していった。これに対して自衛隊のOR活動は、上述したとおりそれとは全く逆の経過をたどり、運用現場の諸問題の分析に全く逆方向にマクロな行政ORとして始まり、オペレーションの実働の現場を離れて成長して現在に至ったが、このことが今日のわが国の軍事OR活動の基本的な体質にいくつかの深刻な影を落とし、歪みを遺したことは否定できない。

即ちORは理論モデルや分析手法の集合体ではなく、過去の知見とデータの集合体であると言った方が正しい。その意味で自衛隊のデータ軽視の体質は(集められていながら)、その将来に深刻かつ重大なる障碍となろう。

このことは最近の研究科の受験生に「コンピュータいじり」を志願する防大卒業生は多いが、情報工学の理論コースに入校して「自衛隊の業務や意思決定分析の科学化」を学ぼうとする卒業生がほとんどいないことに明瞭に現れている。

軍事捜索では状況の変化によって当初の捜索計画が途中で打切られることも稀ではないので、いつ捜索を打ち切ってもそれまでの捜索が最適に行われるていることが保証されている一様最適配分が望ましい。

従って射撃を効率化するためには照準誤差と弾道誤差はバランスさせることが必要である。

現代のミサイル戦では射撃コストが高価になるので、オーバー・キルを防止するためにはこの分析モデルは重要であるが、現実には観測コストと射撃コストを同じ尺度で評価することは困難な場合が多い。ただし最適解のふるまいから得られる射撃の原則は、教訓的な示唆に富んでいる。

逐次出現目標に対する最適射弾配分問題

2次則モデルは両軍の各時点の兵力損耗率が敵軍の兵力量に比例する場合であり、このときのフェーズ解は両軍の初期兵力の2乗と各時点の残存兵力の2乗の差が比例する直角双曲線の2次関数となる。このモデルの具体的な交戦態様としては、両軍の各戦闘単位が互いに相手を照準射撃し目標を撃破したならば直ちに目標を変換し、残存目標に対して一様に射撃する完全な射撃管制が行われる場合の交戦モデルが2次則モデルとなる。このモデルは損耗率が相手の兵力量に比例するので、時間経過に伴って両軍の兵力差は拡大し優勢軍はますます優勢になる。2次則モデルが著名なのはこの性質により、交戦の経験則である「兵力集中の原則」が説明されるためである。

(1).岸尚,ランチェスターの交戦理論,防衛大学校,1965, 61 pp.
岸のテキスト(1)は、ランチェスター・モデルの基本モデル、エピデミック・モデル(伝染病の伝播・流行のモデル)や生物の増殖問題、捕食・被捕食関係にある生物の生態系の均衡モデル、戦闘モデルの拡張、決定論ランチェスター・モデルの検証研究、確率論的ランチェスターの5章に亘り丁寧に解説されている。執筆以来かなり年月を経ており、その後の発展的な研究に関する記述はないが、この分野の基本的な研究は1960年代の前半までに集中して行われたので、このテキストの基本的な章は今日でも十分に有益である。